『粘膜の憂鬱』の歌詞と楽曲構造解説

鏡音リンレン】粘膜の憂鬱【オリジナル】 ‐ ニコニコ動画(原宿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm14446756

歌詞

夢の中に居るみたいに何でも犯して良い様に 監獄の中に居るみたい気持ちは縛り付けられ もういっそのこと空中から君の中に忍び込んでみて そうやって見せる情熱の勘違いも甚だしいけど

この川の向こうの街なら理想の現実が在る そんな訳ないこんな筈ないでも何処かにきっと在る筈で この海の向こうの国では皆が幸せに生きる そんな絵空事考えてほら輪廻の希望が残る

嗚呼君の体温が冷たくなってしまう前に 嗚呼君の舌の味を独り占めしてみようか ねえ愛してるとかねそんな甘い言葉を言ってみて ねえ唇の感触確かめたらもう一度だけ

感じて僕の全てをほら何でも知ってるみたいに 快楽の中に棲み着いた憂鬱はこびりついてる もういっそのこと完璧な妄想の遊戯の形から そうやって齧る毒物の綺麗な歯型を見たいな

まあ死んでもいいとか言うなら本当に殺してみて良いかしら 今日から先の世界を君は見ること無く終わっちゃうの 見たくない聞きたくないそんな言葉は聞き飽きたの もう現実感を超えてカラフルな世界を彩ろうよ

感じたい君をほらそう何でも知ってるみたいに 背徳の後ろ側と背中合わせの快感に 溢れ出す液体と敏感な器官交差する 視界は暗闇で君の息遣いに支配され

君の中に居るみたいに体温が解け合うくらい 檻の中に居るみたいに気持ちは驚くほどに 不安なら薬2錠で溶かして何も無くせばいい 現実が近付いたらもっと暗く激しくして

見つめた歪んだ顔目を閉じてもまだ見えてる 絶頂感の昂ぶりももう飽きたからまた何度でも ねえ好きだとか何か空虚な独りごと言ってみて ねえ粘膜の感触確かめたらもう一度だけ

まあ、正直言うと、最近Amazonから続々と届きだした『あきそら』の影響は微量にあると思う。あれは真実の愛(なんだそれ)の話だけど。

構造解説

やたら長くなってしまって申し訳ない。
<リズム面>
最近『アンハッピーリフレイン』に刺激されて10年代のボカロ高速爆伸び曲のリズムを研究していた。ただ聴いて分析するだけでは理解したかどうかわからないので、そこから抽象化したリズム構造を使って実際に曲を作ってみたのがこれだ。研究対象に選んだ曲はどれも変化音の少ない短調(エオリアン・モード?)で、それがキャッチーさを醸しだして爆伸びに繋がっているんだと思うが、俺がそれをやると駄目な気がしたので音韻構造はガラっと変えることにして非12平均律の旋法を作って使った。
ボカロ高速曲から抽象化したリズム構造としては、まずBPMが170〜200前後で、ただし、半分のテンポでノることもできる。スカのように拍の裏を毎回強調していたら半分のテンポでノりにくくなる。あまり研究してはいないがメタルについても似たことが言えると思う。それに対してこのリズムではコード楽器がもっとゆったり動く。
研究対象の曲をiPhoneに入れてじっくり研究していると、特徴はそれ(半分速でノれる)だけでもないことがわかってきた。メロディが、2小節を1単位として2小節目の3拍目で終わるのだ。そして4拍目からは次のフレーズが始まっている。これが3拍目を強調することにもなるし4拍目を強調することにもなる。バッキングは4拍目を強調することが多い。もっと大きく見るとつまり、1,2拍目と3拍目と4拍目がそれぞれ明確に異なった機能を担っていて、さらに2小節を単位としてその前半の小節と後半の小節も異なった機能を持っている。このような拍相互の明確な機能分化は、アフリカ系のリズムを基本とするクラブミュージックではあまりないことだと思う。聴く人によってはそこがダサく感じられたりもするが、思い切って言うとそれをダサいと感じる感覚は古くなっていっているのだと思う。このリズムを用いながらダンスを標榜する『アンハッピーリフレイン』が売れてしまうことがそのマイルストーンになるんじゃないかと思う。
そういう研究成果を踏まえながら、日課の日刊VOCALOIDランキング視聴をしていると、ボカロ曲には「貧乏揺すりのテンポが一致してしまうもの」とそうでないものがあり、前者がキャッチーに聴こえ、実際に伸びやすい、ということがなんとなくわかった。そしてそのテンポを強調しただけのものは体があまり動かず、半分速でも同時にノれるものこそ体が動きやすいこともわかった。ニコニコ動画を見る時はたいていの人がパソコン用の事務椅子に座る。事務椅子に座った時、体はお尻で固定され、それより下とそれより上が一応別々に動く。少なくとも俺の場合、BPM170〜200のテンポは足が感じ、その半分速のテンポは腰より上が感じる。こういう仕組みで、事務椅子に座りお尻で体を固定した時には2倍の関係の2つのテンポが同時に感じられて初めて体全体が音楽に共鳴するのではないか、そのため事務椅子で聴く音楽ジャンルというものが新たに形成されているのではないか、それがアルバム『アンハッピーリフレイン』ではないか、という仮説を立てた。
一般論があまりにも長くなってしまったが、『粘膜の憂鬱』はこの一般論を踏まえて作りつつ、事務椅子に座った自分の体が共鳴することを最終的な指針にして作った。具体的な組み方としては、メロディが3拍目に一旦終わり、4拍目から次のフレーズを始めるようにして、コード楽器は4拍目をなるべく強調するようにした。しかし作り方はあくまで「そう作るとそういうノリになりやすい」というだけのもので、最終的な指針はあくまで自分の体とした。
<音韻面>
使用した音階はC(0),Db(-10),E(+8),F(-2),G(+2),Ab(-8),Bb(-4)(単位はセント)。Bbは最初は使っていなかったのだが、6音音階ではメロディの幅が狭すぎて苦しくなったので少し使うことにした。音階の構成原理だが、まず主音として設定したCの上下に周波数比2:3の比率の音をとり、CFGで骨格を作った。CとGに対しては下行導音としてそれぞれの90セント上に音をとり、Fに対しては上行導音として90セント下に音をとった。これでBb以外の6音音階が形成される。この響きが気に入っていたのだが、前述の通りこれだけでは厳しくなったのでFと周波数比2:3の関係にあるBbを加えて7音音階とした。ピタゴラス音律の一種だと思う。動画のコメント等にも書かれている通り、五線譜に書けばこれはHmp5↓(ハーモニック・マイナー・パーフェクト・フィフス・ビロウ)と一致する。ユダヤ人のクレズマーの音階や日本の都節に似ていると思いながら作っていた。YouTubeで妙に伸びている俺のnanoPAD演奏動画で使った音階ともほぼ一致していると思うが厳密にはまだ確かめていない。
AメロとサビはCを主音とするように作った。C△を主和音とし、Db△をドミナント(バークリーメソッドで言う裏ドミナントにあたる)とした。BメロはFを主音としてみたが、音階にBbを加えたことによってそれがハーモニック・マイナー・スケールと(五線譜上は)一致してしまったのでこのFを主音とする力の安定感が強すぎてサビまでひきずってしまいサビの主音が何なのかわかりにくくなってしまった気がする。
曲全体を通して長短三和音を使いまくっている。この音律における長短三和音はそれほど協和的な響きでもないのだが、俺は協和的な響きをそれほど求めているわけでもないし、この高速テンポではそもそも気にならないだろうと思う。俺としては90セントの半音の牽引力が使えることが重要で、あとはそれほど奇怪な響きにならなければ良いと考えた。