『裏表ラバーズ』再生数推移と派生動画がそれに及ぼした影響についての調査

今高速ボカロック作家を代表するwowakaさんの最初の大ヒット作であり、大量の派生を生んだ『裏表ラバーズ』、これは投稿された時期、派生が出た時期、派生が出た時期のズレ、等から、歌ってみたを初めとする派生がボカロ動画に及ぼす影響を調査するのに適していると考えた。
そこで↓このサイトを使って裏表ラバーズの再生数推移とそれに派生が及ぼした影響を調査してみた。
ニコニコチャート
http://www.nicochart.jp/

初動

本家投稿が2009年8月30日。当日は1万再生/日。
http://www.nicochart.jp/watch/sm8082467
ランキングに載った日に2万再生/日。
(現在表示できる状態の)歌ってみたはランキングに載った日の夜から初動8動画/日ぐらいのペースで出現。
ランキングに載った日の翌日に24,452再生/日というピーク。
その後急落して投稿から約1週間で6千台再生/日にまで落ち込むが、その時期に殿堂入り。つまり派生の影響がなくても1週間で殿堂入りするヒット曲だった。
ここまでは、普通のヒット曲だった。この動画はこの後2段階で数奇な運命に巻き込まれる。

大ヒット歌ってみたの出現

伸びの勢いが落ち込み始めた9月5日に投稿された歌ってみた。
http://www.nicochart.jp/watch/sm8137580
初日は459再生なのだが、数日間でなぜかどんどん伸び、ピーク時に16,858再生/日に達する。本家の伸びも盛り返し、歌ってみたのピークと同じ日に再びピークが訪れ12,276再生/日に達する。
その後半月ぐらいかけて本家は3千台再生/日に減少。歌ってみたは半月後も5千台再生/日。
その後ゆっくり落ち着き、本家も歌ってみたも3千前後再生/日で落ち着く。本家の方がやや多い。
上のものほどではないが、初期に伸びた歌ってみたはもう一つある。
http://www.nicochart.jp/watch/nm8135166
2009年10月14日のランキングを見ると、合計再生数が、本家276,594、歌ってみたの多い方が218,854、歌ってみたの少ない方が58,215。歌ってみた合計が本家を超えている。

茹卵ラバーズの投稿

3千再生/日前後で落ち着いていた本家が、翌2010年1月26日に突然4,881再生/日になり、その後徐々に再生/日が増え続け、ピークの2月21日には11,558再生/日。これは本家投稿の4日後や大ヒット歌ってみたの影響によるピーク時と同水準。
2010年1月26日に何があったか?派生『茹卵ラバーズ』(以下「茹卵」と略す)の投稿である。
http://www.nicochart.jp/watch/sm9501516
茹卵は初日に27,367再生/日という、本家も大ヒット歌ってみたも記録したことのない爆伸びを記録する。4日後に5千再生前後に落ち着く。
茹卵が初動で爆伸びし、数日で急落しているにもかかわらず、本家は茹卵投稿以来2月21日まで毎日、再生数/日が増え続けている。
このことから、茹卵単体の影響で本家が伸びたわけではないことがわかる。ここは重要なポイントだと思う。
茹卵が起こしたことは、裏表ラバーズの派生動画の大量発生である。
茹卵の4日後ぐらいから1日あたりの派生の数が従来の何倍かに増えていて、しかも今見て再生数が10万に近いかそれを超えるような派生が毎日のように出ている。
また、その時期のニコニコ大会議で『裏表ラバーズ』が歌われていたらしい。

ローリンガールの影響は?

茹卵による派生大量発生の最中に、wowakaさんの大ヒット曲『ローリンガール』も2月14日に投稿された。
http://www.nicochart.jp/watch/sm9714351
しかしローリンガール投稿後2日続けて裏表ラバーズの再生数/日が減っているのでローリンガールの影響はあまり大きくないと思われる。
ローリンガールは、ランキングに載った日に、39,709再生/日。
これだけ見ると、むしろ茹卵の影響でローリンガールが伸びたようにも見えるが、どうも、そう言い切ることもできそうにない(少しは影響あるだろうが)。というのも、裏表ラバーズからローリンガールまでのwowakaさんの動画を挙げると、
2009年10月23日の『ずれていく』が
http://www.nicochart.jp/watch/sm8590504
ランキングに載った日に、30,438再生/日。
2009年12月2日の『積み木の人形』が
http://www.nicochart.jp/watch/sm8981824
ランキングに載った日に、13,862再生/日。
であって、39,709再生/日というローリンガールの初動は茹卵以前のwowakaさんにとっても驚くには値しないものだからだ。
ローリンガールローリンガールで派生に翻弄されていそうな動画で(初動が終わった後に1万再生/日を超える山が何回かある)あって、別途研究すれば面白そうなものだが、初動の時点で異様に伸びていることは記憶に留めておきたい。

余談:『ずれていく』

ちなみに、同じく爆発的な初動を記録した『ずれていく』は投稿後1ヶ月で3桁再生/日にまで急落しそのまま安定している。これもかなり謎だが、2つ原因が考えられる。
まず、ランキング改変。『ずれていく』投稿が2009年10月23日、ニコニコ動画(9)開始が2009年10月29日だが、一度沈静化しかけたのに29日後2日続けて再生数/日が増えているところからすると、ランキング改変はおそらく最初は有利に働いている。その後、再生数/日は17,827から一気に4,344に落ちている。この頃まだ「(9)」にユーザーが慣れていなかったために、カテゴリグループ別20位までのいわゆる「将棋盤」に載っている間は再生が集中し、そこから落ちたらいきなり伸びなくなるという力が働いたのではないか。
次に、歌ってみたが(今見ると)全て5万再生未満で、つまり本家の1/10未満であるところから、有力な歌ってみたが出なかったから、という原因が考えられる。しかし歌ってみたが伸びなかった原因としても「将棋盤」の影響があるかもしれない。それが本家より強く出た、という説明になる。
【訂正】調査に使ったサイトの中の人( id:nicochart )様から、「(9)直後の2日間は公式ランキングがリセットされなかったので、デイリーを見るより合計の差分を参考にしていただけると。」というブックマークコメントを頂いた。合計の差分で調べてみると、「29日後2日続けて再生数/日が増えている」というのは誤りである。ランキング改変前日が8,031、当日が3,729、翌日が6,067、翌々日が4,344となっており、その後順調に減っている。なぜ一度谷があるのかよくわからないが、「翌日」の夜23:34に有名歌い手が歌っている影響で微増したということかもしれない。そうだとすると、ランキング改変の影響は不利にしか働いていないと言えそうである。

茹卵後

2009年8月30日投稿の裏表ラバーズが、2010年1月26日の派生・茹卵投稿時点で再生数60万弱。その後おびただしい派生が出て、3月25日にミリオン、5月6日に120万、11月21日にダブルミリオン。つまり本家投稿から茹卵投稿までの5ヶ月と、茹卵投稿後3ヶ月の伸びがほぼ対等。
なぜ、今見ると33万6千再生しかない(本家は255万再生である)茹卵はここまでの影響力、つまり、本家投稿および最有力歌ってみたの投稿を超えるほどのインパクトを持ち得たのか?
一つには、茹卵自体がネタ派生なのでそれによって派生しやすい雰囲気が作られ、しかもその時点で60万再生だった裏表ラバーズは既にニコニコ動画にけるスタンダードナンバーの一つと言ってもいい位置にあり、派生動画を作る敷居が非常に低くなったということがあるだろう。
次に歌ってみたの規模拡大ということが考えられる。
茹卵後の派生大量発生においても、派生の半分ぐらいは歌ってみた(厳密に計算するのは面倒なので今は省く)。
茹卵の投稿は2010年1月26日だが、その頃、歌ってみたの規模が急拡大していたことを窺わせるデータがある。ありらいおんさん( id:myrmecoleon )の統計↓によると、2010年初めに歌ってみたの新参投稿者が急増していることから、この時期に歌ってみたの視聴者も急増していたと推測される。これも、茹卵後の派生大量発生とその大量視聴の一因であると推測される。

http://myrmecoleon.sytes.net/nico/nicohandbook_c78.pdf の26頁より引用)

結論

調べながらTwitterに書いていた時には、「歌ってみたの影響力が2009年と比べて2010年に激増していることを証明する調査結果だ」と思っていたのだが、こうやって一つの文章にまとめてみると、必ずしもそうとも言えないなと思えてきた。まず茹卵ショックが異質すぎるしその範囲も歌ってみたに留まらない。それに、2009年9月時点でも歌ってみたの影響がかなり大きいことが窺われる。さらに、最も伸びている歌ってみたも歌い方が異質なので、裏表ラバーズ自体が歌ってみた映えする曲なのかどうかすらよくわからない。もっと言うと、茹卵がなければ裏表ラバーズはここまで伸びていないはずなのだが、突然のランキング改変がなければ『ずれていく』がもっと伸びていたことが推測されることがわかったので、「wowakaさんが(数十万を連発するPを超えて)ミリオンを連発するPになったのは茹卵の影響であって、その作風がボカロ視聴者や歌い手の需要によってミリオンに達する必然性を備えていたわけではない」とも言えそうにない。結局、俺はこの調査結果から何を得れば良いのかわからなくなった。ひどいオチである。